ワンダフルストーリーvol.11 「いつも初めてのように」

いつも初めてのように

島田様とは14年という長いお付き合いでした。8年前に奥様を亡くされ、ご主人様が85歳でお一人になられてからも、2週間に1度は家事サービスで伺っていました。奥様のいらした頃は、ご主人様はご不在のことが多く、ほとんど会話らしい会話をした事がありませんでした。お一人になられ、どのように対応したら良いかと戸惑いましたが、なにより、寂しい思いをされているでしょうから、少しでもお役に立てればと、気がついたところから何でも始めてみることにしたのです。

「まるで新品だね! こんなに綺麗に張り替えてくれるとは嬉しいな」
これが島田様とのコミュニケーションのきっかけとなりました。

読書が趣味の島田様は、書斎で新聞や本をお読みになります。長年お使いの電気スタンドは、和紙のランプシェードが黄ばんで、今にも破れそうでした。私は手仕事が得意ですので、“これならできそう”と思いました。
「よろしかったら張り替えてきましょうか?」
と申し上げると、
「じゃぁ、お願いするよ」
とおっしゃったので、ランプシェードを持ち帰り、家にあった障子紙で張り替えて、次に伺う際にお持ちしました。
「まるで新品だね! こんなに綺麗に張り替えてくれるとは嬉しいな」
これが島田様とのコミュニケーションのきっかけとなりました。
居間のお仏壇を拭いていると、お線香立てが灰で固くなっていたので、燃えカスを取って柔らかくしておきました。次の回に、「木村さん、お線香がスッと入ったよ! こういう所もしてくれていたんですね」と。お線香を立てて、ハリのある声でお経を上げていらっしゃいました。

「木村さんがみてくれるから、胡蝶蘭が毎年咲くね」

その後、近くに住んでいたお譲さまが引っ越されて、また寂しくなられたので、空いていた鉢植えに一年中、花を楽しめるベコ二アを植えて差し上げました。島田様は「お掃除で忙しいのに、こんな事までしてくれて…」と。
暖かいマンションでは、赤やピンク、白と、ベコニアの花が見事に咲きました。島田様との会話の中に、お花のことが多く入るようになりました。奥様を偲んでご友人から届けられた胡蝶蘭の鉢植えも、冬は室内に、春にはベランダに出し、水やりで水がこぼれてもいいように、空き箱にビニールを敷いて、その上に置くように工夫しました。「木村さんがみてくれるから、胡蝶蘭が毎年咲くね」と喜んでくださいました。
以前のお住まいでは、お庭に色とりどりの牡丹が何株も咲いていました。中でも黄色い牡丹は珍しいからと、鉢に植え替えてマンションに持って来られましたが、それから一度も咲かないのです。たまたま行った深川の牡丹町で、公園の牡丹が花盛りでした。黄色い牡丹の写真を撮って島田様にお見せすると、牡丹町は亡くなった奥様のご実家があったところというのです。その話を私の主人にすると、主人は街歩きが趣味なので、島田様に差し上げたら喜ばれるだろうと、深川周辺の地図を渡されました。
島田様は懐かしそうに地図を眺めると、空襲にあった時の話を聞かせてくださいました。結婚して間もない頃、仕事先の中国から一時帰国した島田様は、ご実家に預けていた奥様に会うために牡丹町に行き、1945年3月10日、そこで東京大空襲に遭われたのです。新調したばかりのウールの外套を川の水で濡らして頭から被り、火の海を逃げました。外套のお蔭で命拾いをし、その後、奥様とも無事に再会できたといいます。
またある時は、キッチンで小さな虫がいっぱい見つかり、「原因を突き止めてください」と言われました。桐の米櫃に残っていたお米から虫が湧いていたのです。島田様は家ではご飯を炊かないので、了解を得て米櫃を整理し、床下収納にしまってあった乾麺も処分しました。
「蟻が入ってきたから、今日来られませんか?」
と連絡があったときにも、私の代わりにハウスサポートのスタッフが伺い、アリ駆除の箱をセットしてきました。島田様は原因が分かり、きちんと処理されたと知ると安心されました。一人暮らしでお困りのところを、出来る限り解決して差し上げようという姿勢でいましたから、急なことで私の都合がつかなくても、ミニメイドのチーム体制でサポートできて、島田様にも心強いことだったと思います。
今年7月、島田様は急にリビングで倒れて入院されました。1週間後、退院される日は、ちょうど家事サービスで伺う日でした。「今日は失礼したほうが…」とお譲様にお聞きすると、「いえ、父は木村さんのファンですから、ぜひ来てください」と。お宅にはすでにご長男夫婦がいらしていて、これからは車椅子の生活になるからと、寝室を車椅子の入る別室へと交換しました。そこへ島田様がお譲様ご夫婦と戻られたのです。
「いやぁ、木村さん、来てくれたんだね、ありがとう」と握手をしてくださいました。お盆の時期に、私が仏さまにお菓子を差し上げたのを覚えておられ、「木村さんがお線香を上げてくれたんだよ」と息子さんやお譲さんに話してくださったのです。
1週間後、島田様は老人ホームに入所されました。あと数カ月で94歳になられる島田様は、一人暮らしでお元気にがんばられているのがご自慢でした。お譲様からは「ホームで皆さんと一緒の生活は、父には辛いでしょうから、戻ることになったら、その時はまたお願いします」と言われましたが、それからご連絡がないので、そのままご自宅には戻られなかったのでしょう。

その一言で、私は喜びを持って仕事をすることができたのです。

私がこの仕事を長く続けて来られたのは、掃除が終わって部屋を点検するときにおっしゃる島田様の一言が、何よりも嬉しかったからです。それを聞くだけで充分で、その瞬間のためだけに、続けて来られたような気がします。
「見違えるように綺麗になりましたね!」
「まるで天国にいるみたいですよ~」
そんなオーバーな表現をされることもありました。長い間、伺っているのに、毎回、毎回、笑顔で喜びと感謝を表現してくださいました。いつも初めてのように、毎回、言葉を尽くしてくださいました。その一言で、私は喜びを持って仕事をすることができたのです。
島田様、私こそ本当にありがとうございました。
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